2013年にユネスコ無形文化遺産として登録された、日本人の伝統的な食文化「和食」。
その魅力を世界に向けて発展させた功績が認められ、2014年に文化庁長官表彰を受賞した稲葉正信さんという和食料理人がいます。
都内一流ホテルや伊勢志摩「アマネム」の総料理長を経て2021年、満を持して個店「銀座 稲葉」を開店した稲葉さん。同店で導入を決めた『極幻』を、和食の本髄にも通じる「奥ゆかしくも、凛とした個性」と表現した同氏に、和食と日本酒のグローバルな展望についてお話を伺いました。
・プロフィール
銀座稲葉 オーナーシェフ 稲葉 正信氏
1967年、東京都生まれ。六本木「グランドハイアット東京」の開業にともない、寿司「六緑」の副料理長に。その後、汐留「コンラッド東京」の日本料理「風花」のオープンに参画し、2010年に総料理長に就任。2016年には三重・伊勢志摩のリゾート「アマネム」の総料理長となり、その朝食を米国の雑誌『BRIDES』における“The Best Hotel Breakfasts in the world”に導く。2021年、自身の名前を冠した「銀座 稲葉」を開店。
「世界最高峰の朝食」を提供する和食店
静かな銀座の朝。銀座8丁目の閑静な通りに店を構える「銀座 稲葉」では、アメリカの雑誌で「世界最高峰の朝食」として紹介されたこともある、本当の贅沢を追求した、極上の和朝食を提供しています。
そして、そんな特別な朝食を召し上がってお帰りになられるお客様を一人ひとり、自ら率先して深々と頭を下げてお見送りするのが、銀座 稲葉のオーナーシェフ・稲葉正信さん。「コンラッド東京」や「アマネム」といった、外資系ホテルの総料理長を務めてきた稲葉さんならではの、なんともホスピタリティを感じる一コマです。
「おもてなしにあふれるホテル文化が好きなんです。この銀座 稲葉を成長させたあかつきには、このお店ごと出店を求められるような存在になりたいと思うほど、ホテルには尊敬の念があります」と語ってくれた稲葉さん。
世界的にも評価されたホテルでのキャリアをおいてまで、美食の激戦区・銀座に個店をオープンしたのは、信条である「温故知新(おんこちしん)」と「融通無碍(ゆうづうむげ)」の和食道を、ホテルではなく自らの世界観において、究極的に突きつめてみたかったからだそうです。
「昔のものを大切にすることと同時に、今までの常識にとらわれないことを大切にしています。経営面でも体力面でも合理的なランチはやらずに、朝食を提供していることも、その一つです。
その意味で、MINAKIの“ラグジュアリー日本酒”というジャンルを、新たに打ち立てているところにシンパシーを感じます。味はもちろん、ストーリーのある日本酒を求められているお客様が多いのですが、MINAKIの酒は自信を持ってご提供できます」
稲葉さんが感じたMINAKIのブランドとしてのユニークネスの一つは、至高の味わいをそれぞれ徹底的に追求するため、純米大吟醸『極幻|GOKUGEN』、スパークリング日本酒『珀彗|HAKUSUI』を異なる酒蔵で製造していること。
驚きの“精米歩合17%”で200時間以上も米を磨き上げて作る『極幻』と、伝統的な日本酒造りの工程に「瓶内二次発酵」と呼ばれる、シャンパーニュをつくるための技術を取り入れた『珀彗』。
従来の日本酒業界では異端の手間ひまのかかる工程を、一つの酒蔵でも徹底してもらうのも至難の技であろうところを、オペレーションの困難を乗り越えて、2つの酒蔵で実現していることに感嘆したといいます。
実は、18歳で和食の世界に入ってから、弱冠27歳にして、グランドハイアット東京の副料理長になるまで、いわゆる名店と呼ばれるところでの修行をしてこなかったという稲葉さん。ほぼ自己流で料理の腕を磨いて和食道を切り拓いていった稲葉さんにとって、MINAKIのようなパイオニア精神のあるブランドには惹かれる部分があったそうです。
“奥ゆかしくもの凛とした”同士の相性の良さ
『極幻』のファーストインプレッションは「ストーリーに負けない、洗練された味わいだった」と稲葉さんは振り返ります。
「極幻が面白いのは、食前、食中、食後と、食事のどのシーンにおいても合うところ。最初はしっかり芳しい香りがするから乾杯にもいい。ふくよかな甘さと引きの良さのバランスが、食中酒としてもいい。余韻が豊かだから食後に飲むもいい。高級な日本酒ではありますが万能選手。さまざまな好みのお客様やシーンにおすすめできます」
夏の気配が濃くなり始めた取材時、『極幻』のペアリングとして、稲葉さんが提案してくれた料理の一品目が、「焼き穴子のウニのせ 実山椒ソース」。淡白な個性を持つ穴子に贅沢に盛られたウニとのハーモニーに、山椒のアクセントがピリッと効いた逸品。誰もがその美味しさにふっと表情がやわらぐような、まごうことなき美食です。
「和食とお酒のペアリングに関しては、“奥ゆかしくて凛とした味わい”同士だったら必ず合う、という持論があります。和食って繊細なものでしょう? ですから、『極幻』のような、日本酒らしい上品な味わいとクリアな旨みを兼ね備えた日本酒とはよく合います」
2品目は、「イサキのあらい 香味醤油」。イサキの調理法としては珍しい“あらい”にすることで、魚の余分な脂を落としたところに、温かい香味醤油でいただく一品。見た目は涼しげですが、口内ではイサキとお醤油の“ひやあつ”な温度差を楽しめます。
「食材は同じ温度でまとめる一体感がありますが、温度差を利用することで、それぞれ味わいや具材としての輪郭が際立ちます」と稲葉さん。そこに、名ソムリエに「料理の魅力を引き立てる食中酒としても最適」言わしめた『極幻』を合わせれば、さらにラグジュアリーな極上のひとときの始まりです。
料理も酒も、究極は「幸せな時間を提供すること」
稲葉さんの和食を世界に広めた功績は輝かしいものがあります。
統括料理長を務めたコンラッド東京の日本料理「風花」では、アメリカのホスピタリティ業界専門誌『HOTELS』にて、“Great Hotel Restaurant”受賞。さらに、台湾・新竹にある日本料理店「天竹園」のプロデュースに参画。その後も、マレーシア、ベトナム、ドバイなど、海外諸国で日本料理店のプロデュースを手がけてきました。
「コンラッド東京に在職時、各国のオーナーが集まるヒルトングループのカンファレンスに、日本料理を代表して参加したときの経験が忘れられません。10ケ国ほどのブースが並んだ中で、最後まで列が並んで、他国のシェフも並んでくれたのが日本料理だったんです。
2011年の震災直後に、タイで日本食をふるまったときには、涙を流して喜んでくださる方もいて。和の繊細な魅力が、確かに伝わっていると感じました。この言葉を超える感動を後世にも伝えていきたいと僭越ながら思っています」
「世界に通用する日本料理」を各国で伝えてきた稲葉さんでしたが、一方で、中華料理などと比べ、日本の食材が手に入りにくい、島国から出て日本文化を発信しようするというプレーヤーがあまりに少ない、という現実にも多く直面してきたと言います。
「和食が世界で認められ始めたといっても、まだまだ過程に過ぎません。だから、MINAKIのように世界に打って出ようとする日本酒など、他分野とも協力して、“チームジャパン”として発信していきたいですね」
今や、さまざまな日本文化が世界に発信されていますが、絵画や音楽と違って、料理や酒は、その瞬間瞬間で楽しむもの。「料理も酒も嗜好品であり、儚い芸術であると考えます。だからこそ、究極的には、“幸せな時間”を提供することが使命です」と語った稲葉さん。
こだわり抜いた和食と日本酒のタッグが、「ラグジュアリーな時間」を世界に輸出するようになるのも、そう遠い未来ではないかもしれません。
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・銀座 稲葉
住所:東京都中央区銀座8-12-15 1F
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